無名ファイル1


「貴方のお父様はピアニストですか。」

「はい…パーティーへのご招待、
誠にありがとうございます。」

姿勢がいい…育ちの良さが伺える。

彼女の微笑みに胸が高鳴るのを感じた。

「貴方の目は綺麗ね…美しい。
綺麗な簪の月と同じ色…。」

「ありがとうございます。
この簪…気に入っているんです。」

2人で他愛のない話をした…。

家族の話や野良猫の話とか。

「指輪、ムーンストーンですか?」

彼女が私の指をするりと撫でる。

キラキラ輝く瞳…嬉しそう。

「そう、よく分かりましたね。
私の誕生石なのですよ。」

彼女は誕生花や誕生石に詳しかった。

「…簪、誕生日が6月5日なので、
真珠が付いてるんです。」

「あら、一日違い…私は4日です。
誕生花と言えば、あちらに空木が、
今、丁度綺麗に咲いていますよ。」

「え!!本当ですか!?」

彼女は私の手を包み込む様に握る。

「ふふっ、こちらへいらっしゃい。」

「…すみません、取り乱しました。」

私は浮かれていた…その証拠に、

初対面の人の手を握り返したのだ。

「綺麗…。」

「そうですね。」

儚い時が刻まれてゆく…。