無名ファイル1


クラシックの音楽が鳴り響くテラス。

もうすでに料理は並んでいて大人達は、

ワインを開けて談笑していた。

『ごきげんよう。』

「おやおや、ごきげんよう。
今日はお招きいただきありがとう。」

私達姉妹はパーティーがあると、

決まって全てのお客様に挨拶をする。

これも母親の教育のうちだった。

「あっ…アルフィーさん…!!」

姉は一人の少年を見つけると、

顔を赤らめてその人の名を呼んだ。

アルフィー・サド…当時16歳。

私はこの男が嫌いだった…。

高貴な香水の香り…忘れられない。

「彩音ちゃん、魅香ちゃんこんにちは。」

「ごきげんよう!!」

「…ごきげんよう。」

姉は弾む声であの男と話し始める。

時折寂しそうに笑いながら。

あの男は日本の音楽を学びに、

イギリスから留学してきた男だった。

「今夜は彩音ちゃんの歌を楽しみに、
僕はこのパーティーに参加したんだよ。」

男は穏やかな声で姉に言った。

「本当ですか!?…嬉しい!!」

姉は男に頭を撫でられて嬉しそうに笑う。

どうせもう二人は今晩限りで離れ離れ。

私はどこか冷めた感情でその場を離れた。