無名ファイル1


ー9年前ー

大切な女の子との想い出の日。

「魅香!!今夜のパーティのドレス!
綺麗でしょう?新しいのよ!!」

ピンクのふわっとしたドレスを着て、

クルリと回った少女はにこっと微笑む。

天使の羽のような純白の長髪が、

少女の動きに合わせてさらさらと踊る。

少女の名は彩音。当時9歳の私の姉。

「姉様、綺麗。とても似合ってる。」

紫のドレスを着る幼稚園児が私。

姉は一瞬少し寂しそうな顔をして、

私のドレスを見てまた微笑んだ。

「魅香も素敵!可愛い♡」

姉は私を抱きしめる。私も姉の腰に、

ぎゅっと抱き着いた…。

「彩音、魅香もうテラスに出なさい。
お客様がお見えになるから。」

『はい、母様。』

母は礼儀に厳しい人だった。

昔からテーブルマナーや言葉遣いを、

私達姉妹に口酸っぱく指導していた。

「日本を離れるのは寂しい?」

姉の部屋を出て階段を下りている時、

呟くようにポツリと問われた。

「友達と離れるのは寂しい。
でもオーストリアは音楽に溢れてる。
私はむしろ楽しみ、姉様は違う?」

姉は私の返事に小さく相槌を打った。

「私はここにいたい。」