「悪いよ、夏夜も疲れてるでしょ」

机の中の教科書をバッグに詰めながら、

先生や麗菜ちゃんの言葉を思い出す…。

そうだよ、この人はアイドルなんだ。

あたしなんかが近づくなんて畏れ多い。

「…余計なこと考えてるな?」

教室を出ようとした時…背後から、

手が伸びてきて扉を押さえつけられた。

「っ…!!」

逃げられないし、出られない…。

「余計って?」

「少し前から…全然目を合わせない。
変だなとは思ってた、何か…あった?」

…麗菜ちゃんとの買い物の日のからだ。

だって…知ってしまったから…。

「夏夜ファンの反感買いたくないもん」

夏夜が息を飲む音が聞こえた。

「俺がアイドルだから避けるのか?」

不安そうな声が鼓膜を揺らす。

「避けてない、なんでそんな顔するの」

夏夜を振り返ったあたしは思わず笑う。

胸がツキツキ痛む切ない顔。

外で雨が降り出した激しい雨音がする。

「夏夜はあたしのお友達でしょう?」

「…そうだったな、もう帰ろう。」

夏夜はそれ以降話さなかった…。

傘の幅のせいで…なんだかいつもより、

遠くに彼が遠くにいるような気がした。