無名ファイル1


ほんの一瞬だけ…目を放した私達は、

女の子が走った先には何もなく、

誰もいなくなっていることに、

驚きが隠せなかった…。

「…狐に化かされた?」

「普通に考えてテーマパークに、
狐はいないと思うけどな…。」

でも現に女の子と繋いでいた手は、

ほんのり彼女の体温を帯びている。

不可解と表現する以外にこの状況が、

説明することができない…。

しばらく呆然としていると、

雨が止んでいることに気がついた。

おもむろに傘を閉じると、

先程まで空を覆っていた分厚い雲は、

吹き抜けた風とどこかへ消えている。

「虹…」

空を見上げるとくっきりと鮮やかな虹。

私達はそれ以上女の子については、

模索することはやめた…。

ただ、彼女が両親と再会して、

幸せであることだけを願う…。

「ねぇ、またツギハギ劇場見に行こ!
今の時期は冬だけの特別ストーリーが、
公開されてるんだって!!」

「いいよ、お土産は最後にしよう。」

雨が上がり、傘一つ分の距離が縮まる。

女の子を介して繋いでいた手は、

彼の手をしっかりと握っている。

いつもよりも特別な温もりを感じた…。