無名ファイル1


そしてここで二人で作り上げた歌が、

流れ始める予定だった…が、

何やらトラブルが起こったようだ。

蛍がイントロの部分を口ずさむ…。

私もそれに合わせて歌い始めた。

もうここまでくれば怖くない。

何度も何度も試行錯誤して作った、

妥協も忖度もない二人の歌…。

曲が流れないくらいのハプニングは、

私達には造作もない事だった。

恋の色形は人によって様々だ。

どの形もどの色も間違ってはいない。

悪くはない…ただ不意に周りと比較し、

落ち込んで、羨んで…一喜一憂する。

一人では疲れてしまうだろう。

でも貴方と一緒ならば慌ただしい、

そんな感情の変化すらも…愛しく、

幸福を感じて受け入れてしまうだろう。

…という内容の歌。

綺麗な愛だけを詰め込んだ歌ではない。

だから多くの人の共感を得る。

劇が終わると体育館が割れそうなほど、

大きな拍手と歓声に見舞われた…。

舞台袖で高鳴る胸を押さえて放心する。

ハプニングばかりだったけれど、

まぁ、終わり良ければ全て良しってね。

隣にいる蛍とバチッと視線が絡む。

『お疲れ様』

声を揃えて互いを称えた。