『ガチャッ!!!』

「はぁっ…はっ…はーっ」

見渡す限り本棚…目当ての相手は…。

人の気配はなく、無人の様だった。

冷房の風に火照った体が包まれる。

「いない…帰っちゃったのかな」

それとも、意図的に逃げられた?

せっかくエミリアが教えてくれたのに。

『ブーッ…ブーッ…ブーッ』

「え…はい、もしもし…」

鼓膜を揺らす穏やかな人の声…。

「見学?…分かりました」

『プツッ…ツゥーッ、ツゥーッ、ツゥーッ』

急なお誘い…一体どうしたんだろう。

「でも、丁度良いかもしれない。」

私は携帯をしまうと帰路についた。

「あらぁ!おかえりなさい、魅香!
あのサドってやつブン殴ったぁ?」

庭の水やりをしていた百合ネェが、

キラキラ笑顔で私を出迎える…。

さっきまでもやもやしてた感情も、

どきどきしてた心臓もスッと安定する。

「百合ネェ!!捻り上げてやったよ!」

「えぇ、ちょっとぬるくなぁい??」

ぬるくないよ…ピアニストの手は、

命よりも大切な物なんだから…。

それを二度と使えなくなるかもって、

冗談でも言われたらトラウマだよ。

「ほぼ解決!!」