「ケホッ…」

未だ残暑の熱が残る9月の初旬、

冷房の風で銀髪の鬱陶しい髪が揺れる。

『月乃ちゃんの声、治らないね。』

『本番…大丈夫?』

私は言葉の重圧に堪えかねていた。

彼とはあの日の騒動から気まずいし。

『月乃ちゃん…このままだとヒロイン、
交代になってしまうかも…例えば、
エミリアが候補に挙がってるんだ。』

あぁ、ドレス似合いそう…美人だし。

私はあの男に接近したあの日から、

昔の無気力な自分に戻りかけていた。

どうでもいい…自暴自棄だったのかも。

「私はヒロインは断固拒否デース。
ヒーローなら喜んで引き受けるデス!」

こんなゆるふわな子がヒーロー?

ドヤ顔をするエミリア…うーん姫。

「大丈夫、本番までに全部解決する。」

机に突っ伏して寝る彼が視界に入った。

「夏夜、起きて…劇の通しするって」

「…ん。」

寝ぼけ眼を擦る彼は少し機嫌が悪そう。

しかし演技には微塵も影響させない。

「スゥーッ…。」

スイッチが入り、澄み切った少年の瞳。

彼は触れられるほど近いはずなのに、

ひどく距離を感じた…。

「じゃあ、通し行くわよ!よーい…」