気付かないうちに

蓮を傷つけてしまったのかもしれない





気付かないうちに

蓮の嫌なことをしたのかもしれない



目も合わせてもらえない蓮を目で追うだけの日々

一歩踏み込む勇気が持てなくて
俺は毎日毎日自分を責め続けた

最後に蓮を招いた日の家中のカメラ映像を
親父にお願いして確認をした

けれど・・・


“お庭に出ちゃいけない日”に
お庭へと出た蓮が足を向けた先は
カメラの死角になっていて

映像も音声すらも無かった


ただ・・・

これまで一緒に居たんだから
蓮は話してくれると信じて高を括った俺は

自分から歩み寄ろうとはしなかった

その結果。


お袋から聞かされた事実に思考が停止した


「蓮ちゃん、東美へ進学するんだって」


そう聞いた時は
あまりの絶望感に

何も喉を通らなくなった


東美といえば監獄のような女子校で
帰省すらままならないところ


そこでやっと
蓮の決意を知ることになったんだ




なぁ、蓮


あんなに一緒にいたのに


蓮を想っていたのは俺だけで


蓮は俺のことを何とも思っていなかったのか?


『おやくそく』を心の支えにしてきたのは俺だけか?


離れている時間が長くなるほど
蓮への想いは募る

あれから六年
東美は六年生になると監獄から出す前に“世間”というものに慣れさせる課外授業が始まる


やっと


蓮がこの街へ帰ってくる


東美へ入学したと聞いてから
どれだけこの機会を待ち望んでいたことか


月に二回程の金曜日の外出に


蓮と会うことを決めた俺は
亜樹には少し話していた


一年早まった俺たちの引退は
亜樹と永遠の思惑だけではなくて

俺が動きやすいようにという配慮もあったのだ