「・・・蓮ちゃん」


ずっと付き添ってくれていた岡部さんが眉を下げて頭を撫でてくれる


「何があったかなんて野暮なことは聞かないけど
物事って自分が考えているより簡単だと思うのよ?
まだまだ人生これからだから、頑なな気持ちは
蓮ちゃんにとってマイナスになるかもしれない
だから・・・
1か100かじゃなくて
50くらいで気楽に生きるのもいいものよ?」


母が生きていれば岡部さんみたいに
私の頭を撫でてくれたのだろうか?

出ない答えばかり考えていると


「少し休むといいわ」


ベッドサイドの灯りだけにして
岡部さんは「また来るね」と行ってしまった


でもね・・・岡部さん
頑なな気持ちになるのは仕方ないの

だって・・・私は


大ちゃんに相応しい相手じゃない

あの目付きの鋭い男性の言葉は
六年経った今でも私の胸を苦しめるの


『ちゃんとした家の子』

『綺麗に着飾ったお嬢』

『毎日取り入ってくる女達に囲まれる』

そして

『相応しい相手はお前ごときじゃない』

『分不相応』


大ちゃん


馬鹿だよね・・・私


忘れようとすればするほど
大ちゃんへの気持ちが膨らむの


叶わないのに今でも『おやくそく』を心の底で支えにしてる


いっその事こと全部忘れて仕舞えば楽なのにね


・・・大ちゃん


最後に目尻を伝った涙に気付くことなく意識を手放した







□□□



そんな


夢の中の私は





「蓮」



低くて甘い声を



「・・・ごめん」



流れた涙の跡に触れた長い指を





オデコに触れた温かい感触を






知らない