柔らかで、しかしはっきりと、こんにちは、と聞こえた。

沈んだ頭を持ち上げると、夏だというのに重たげな背広を着た男がいた。

「アキオくんだよね?私は、こういう者です」

そう言われて渡された名刺に目を落とす。

ぎゅうぎゅうに詰め込まれた漢字が、その人を写す俺のレンズフィルターを変える。

ふちのない眼鏡を鼻に乗せて、綺麗に梳かした白髪交じりの髪が風になびいた。

弁護士、という言葉の本当の意味は携帯でググらないとピンと来ない。



でも俺はちょうど絶望していた。

「……マコトの味方ですか」

その人は躊躇することなく、はい、そうです、と丁寧に答えた。


「マコトくんから君の話を聞いてるよ」

そう微笑まれてやっと、俺はその人の方に体を向き直した。



「こないだ、岬さんともお話しさせてもらったんだ。アキオくんにも、少し挨拶させてもらえないかな?」

「岬と?」

いつかの岬の泣き顔が思い浮かんだ。
夏の日差しを浴びて制服のシャツに透けたあのキャミソールの肩ひもが、蘇った。