「ねえ、やばくない?」

期末テストの記憶などほとんど無いままに、終業式を迎えた。

夏休みが始まるのにも関わらず、ほとんどの教科書を机の中に置きっぱなしにして俺は窓の外を眺めていた。

どうせ相変わらずノートは真っ白なのだから、持ち帰る意味がない。

おどおどとした担任の、静かに、静かに、という声は、色も粘り気も無いからすぐに溶けてなくなる。

「やばいって!全国ニュースだよ」

「あたし普通に今朝歩いてたら取材来たからね。カメラいたもんカメラ」

「てかあいつそんな奴だったの?なんか同中の子が頭良かったって言ってた」

「ちょいイケメンだから軽く騙されたよね」

「ほんとそれ。相手死んだんかな?てか相手中学生でしょ?マジ卑怯」

「まだ死んでないけど死んだらやばそう!何億とか払うことになりそう!」

「いやいやあんたショウネンホウって知らないの?守られんだよ別に、死んでも」

机一つぶん離れた世界は大いに賑わっている。
違う世界なのに、言語が共通してしまっているから、耳が聴いてしまう。

「……だまれ」

ちょうど机一つぶんの範囲の声で吐き捨てた。
その声にも色は無かったのに、変に粘り気があったせいか、床に落ちた後こびりついてしまった。