「マコト!」

開けかけのコロッケパンを握ったまま思わず叫んだ。

マコトが振り返る。目にかかる長い前髪が、さらさらと額で踊った。

不思議そうにこっちを見ている。
なぜ呼び止めたのか、自分でも分からなかった。


図書室で二人で過ごされるのが、なんか、なんとなく嫌だった、いや嫌っていうのもおかしいけど……というか別に嫌ではないんだけど。


「なに?」

白い廊下にマコトの細い体が浮かんで見えた。

「……河川敷の"あれ"、まだやってんのか」

あの変な儀式みたいなやつ、と付け加えようとして、やめた。
マコトは眩しそうに目を細めて微笑んだ。

「ああ」

マコトはいつも返事に迷わない。
閉じられたコロッケパンを、挨拶みたいに高い位置に挙げて、背中を見せて図書室へ行った。




俺は一口かじりつき、もぐもぐと噛んでみたけど、なぜだか味がしなかった。

岬が開けたままにしたドアをくぐって、教室に入る。

きゃあきゃあとカラフルな声が宙を舞っている。
その色の中をくぐるようにして、窓へ進む。



分厚い窓から校庭へ目をやると、早弁した奴らが駆けながらサッカーボールを蹴っていた。

いつのまにか梅雨は終わっていて、終日ぬかるんでいた地面から夏の始まりが蒸発しているようだった。