「アキオ」

分かってる、という風にペットボトルの水を手渡す。

ごく、ごく、とマコトの喉仏が上下するのを見て、これが命だ、と思う。



「いつまで続けるんだよ」

河川敷の橋の下で、その儀式は行われていた。


マコトは人の心の傷を背負う。
身代わりに傷つくことで、傷を押し付けた側の心は救われる。


マコトの体は全く傷つかない。
いじめ、虐待、懺悔、トラウマ。マコトの心だけが、他人の記憶を元に、他人の代わりに蝕まれていく。



「なんのためなんだよ」

「……世界平和だよ」

「ばかみたいなこと言うな」



ペットボトルのキャップを閉めて、再びうずくまる学生服の背中に、俺は精いっぱいの訴えを投げかける。


マコトの耳には届かない。
対岸にいる少年野球チームがわあっと沸き、声の粒子が空中に散らばって、川の水面にぽちゃんと落ちていく。