利光が認めてくれるまで、葵は頭を下げ続ける気でいた。

そんな彼女を見て、利光はうなだれる。

「もうお前には、苦労をかけたくないんだよ。葵」

「……っ」

「あーもう、分かったから! 治療も受けるし、すぐには店を畳まないから、顔を上げてくれよ」

利光の切実な訴えに、葵はゆっくりと顔を上げた。

「現実的にお前一人が店を切盛りするなんて、難しいだろう。
それに……死んだ母さんのことや俺のことを気にして、店を守りたいって思ってくれてるのかもしれんが、お前にそこまで背負わせたくないんだよ。
小さい頃から十分無理をさせて来たんだから」

「お父さん……」

「一人前の職人になりたい気持ちは分かってる
……だから、俺が動けるうちは全部お前に伝えるから」

利光はそう言うと、一層真剣な目で葵を見つめた。

「店は今年中に畳む。お前は新しい場所を探す。……この二つを約束してくれ」

「……っ」

「金の心配はいらん。二店舗目を出すために貯めていた資金……あと、お前の行かなかった大学費用があるんだ。俺のもしものことがあって金に困ったら、そこから使え」

「嫌……」

「嫌と言うなら、俺は今すぐにでも店を閉めるぞ」

(お父さん……!)

ふいっと顔を逸らす利光に、葵は訴えるように視線を向ける。

(あ……)

利光の顔がわずかに震えていた。
葵からは見れないが、きっと……。

(お父さん、病気になってから色んなことを想定してたのかな……?
私のことを一番に考えた選択が、もしかしてお店を畳むことだったってこと?)

悔しさと悲しみが一気に押し寄せてきて、葵の視界は滲んでいく。

(お店のことは諦めたくないけど、
一生懸命考えたお父さんの気持ちに反したことはしたくない。
それに、今は病気を治すために最善を尽くしていかなくちゃ……!)