独占欲に目覚めた御曹司は年下彼女に溢れる執愛を注ぎ込む

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(僕は、葵ちゃんを傷つけてたんだな)


「柾さぁー、さすがに飲みすぎじゃない?
明日も飛ぶんだから、その辺にしとかないと機内の中で怒られるよ」

須和の広々とした部屋に、友人である日置立(ひおきりつ)の陽気な声が響いた。
彼は同じマンションの住民でもあるので、
夜中に呼び出しても、こうしてやってきてくれるのがありがたい。

「……そういうお前も結構飲んでるだろ。明日はオペが無いとはいえ」

手に持っていたグラスを呷り、須和はソファへ体を投げ出した。
日置はそんな須和の姿に、にやにやと笑みを浮かべる。

「そろそろ何があったか教えてよ~葵ちゃん関係でしょ、どうせ。
あ、分かった! 振られたんじゃない、おじさんはイヤですって」

「お前、気安く葵ちゃんとか言うなよ」

酒の勢いで日置に何度か葵に関してのろけてしまった自覚はあったが、大分前の話だ。

「見てみたいなぁ、柾の溺愛の葵ちゃん♥ 今度和菓子屋さん行ってみよっかな~♪」

「……絶対にそれは許さない」

「でた、こわ」

「……」

(なんでなんだろう、なんで……)

須和ははぁーっと大きくため息をつき、残っていたアルコールを飲み干した。

「こんな柾を見たら、梨々香さんも気が気じゃないだろうねぇ。
葵ちゃんとくっつく前に手を打っといたほうがいいと思うけどな」

「何回も言うけど、葵ちゃんと一緒になることはないよ。
それに……梨々香がどう思うと知ったこっちゃないし」

吐き捨てる須和に日置は残念そうに口を尖らせた後、ニッコリと笑顔を浮かべた。

「どうだろうかな、柾って結構執念深いっしょ? 今後の展開に期待してるね」

「執念って……」

(そんなはずがない。今まで何かを欲しいと思ったことは……多分ないはずだ)

人が欲しいというものは、全て手に入った。
要らないものまで貰うこともあるくらいだ。


「……」

(欲しいものか……)

自分のせいで涙を流す葵を思い出して、須和の胸がチクチクと痛む。

(なんでこんなに気分が落ちるんだろう、
葵ちゃんの気持ちに応えられないっていったのは自分なのに)

純粋無垢なあの子には、俺以外の人に恋をして幸せになって欲しい。

(そう本当に思っているのに、抱きしめてしまう自分に矛盾を感じる)

愛おしい感情は、普通だと思う、だって……。

(葵ちゃんはおじさんと由紀子さんの子供なんだから。ただ、それだけ……)