独占欲に目覚めた御曹司は年下彼女に溢れる執愛を注ぎ込む

「……須和さん? どうしたんですか?」

首元に感じるかすかな息遣いに頭がくらくらする。
胸の前で組まれている逞しい腕に、思わず手が伸びてしまいそうになった。

「今日で、ここに来るのは最後にするね」

「……っ」

低くかすれた声は、葵の鼓膜を切なく揺らす。

「君をひどく傷つけたのに、自分のために来ようなんて虫が良すぎた。本当に申し訳なかったよ」

「須和さん……」

「葵ちゃんのこと、今もこれからも、ずっと大切なのには変わらない……そう思うことだけは許してくれないかな。
……会えなくても、ずっと君のことを応援したい」

「……っ」

本当は須和に会いたいと言ってもらえて嬉しくて仕方がないのに……伝えることができない。
自分のためにも、彼のためにもだ。

「...…」

一粒の涙が頬を伝い、須和のシャツにポトッと染み込んでいった。

「……あなたが、私のお菓子を好きでいてくれて、ずっと応援してくれて……嬉しかった」

須和がいなかったら。
須和が母が亡くなった時に支えてくれなかったら。
二年間励まし続けてくれなかったら……自分はどうなっていただろうか。

「須和さん……私……」

「……」

須和は何も言わず、抱きしめる力を強める。

(雨が止まなければ、ずっとこうして抱きしめていてくれるのかな……)

最後なんて言わないで欲しい、またいつか今日のようにふらっとお店に現れて……。
そんなことを、今この時も思う自分は馬鹿げてるのだろうか。
葵は心の中で笑った。

(大好きです、須和さん)