「シンガポールとマカオ……あと、イタリアにも」
「わぁ。結構色んなとこに行ってたんですね。
日本の業務をこなしながらだから、大変そうだなぁ」
葵はあらかじめペーストしていた栗と、白餡を丁寧に混ぜ合わせていく。
(うん、いい感じにできてきた)
「意外になんとかなるんだ。秘書がこっちで対応にあたってくれていてね」
「へぇー……秘書って加瀬さんのことですよね。最近会ってないな」
言いながら、金粉をまぶしてデコレーションを施していく。
(ちょっと入れすぎたかな……)
当たり障りのない話を紡いでいくだけでも、不思議と心は落ち着きを取り戻すものだ。
(よかった、このまま普通に振舞えそう)
「あ、そう言えば加瀬さんっておいくつなんでしょう? 結構お若く見え……」
「葵ちゃん」
ふいにシトラスの香りを近くに感じ、葵は息を止めた。
顔を上げると、須和はいつの間にか立ち上がり、腕を組んで厨房に寄りかかっている。
「……それ」
「え?」
須和はシャツの隙間から覗く、葵の鎖骨に光るダイヤに熱い眼差しを向けている。
これは二十歳の誕生日に須和にもらったもの……。
いつも首が詰まった制服を着ているので、利光にもバレないだろうと肌身離さず身に着けていた。
(普段着に着替えた時に、外さなくちゃと思ってたのに……)
これじゃ、まだーー。
「つけてくれてるんだ」
「……っ!!」
須和はそう言うと、距離を詰めてきた。
「あの、素敵なデザインだったので……」
「葵ちゃん、本当にごめん」
「っ……」
後ろから強く抱き締められたのと同時に、手に持っていたボウルの落ちる音がする。
「わぁ。結構色んなとこに行ってたんですね。
日本の業務をこなしながらだから、大変そうだなぁ」
葵はあらかじめペーストしていた栗と、白餡を丁寧に混ぜ合わせていく。
(うん、いい感じにできてきた)
「意外になんとかなるんだ。秘書がこっちで対応にあたってくれていてね」
「へぇー……秘書って加瀬さんのことですよね。最近会ってないな」
言いながら、金粉をまぶしてデコレーションを施していく。
(ちょっと入れすぎたかな……)
当たり障りのない話を紡いでいくだけでも、不思議と心は落ち着きを取り戻すものだ。
(よかった、このまま普通に振舞えそう)
「あ、そう言えば加瀬さんっておいくつなんでしょう? 結構お若く見え……」
「葵ちゃん」
ふいにシトラスの香りを近くに感じ、葵は息を止めた。
顔を上げると、須和はいつの間にか立ち上がり、腕を組んで厨房に寄りかかっている。
「……それ」
「え?」
須和はシャツの隙間から覗く、葵の鎖骨に光るダイヤに熱い眼差しを向けている。
これは二十歳の誕生日に須和にもらったもの……。
いつも首が詰まった制服を着ているので、利光にもバレないだろうと肌身離さず身に着けていた。
(普段着に着替えた時に、外さなくちゃと思ってたのに……)
これじゃ、まだーー。
「つけてくれてるんだ」
「……っ!!」
須和はそう言うと、距離を詰めてきた。
「あの、素敵なデザインだったので……」
「葵ちゃん、本当にごめん」
「っ……」
後ろから強く抱き締められたのと同時に、手に持っていたボウルの落ちる音がする。

