独占欲に目覚めた御曹司は年下彼女に溢れる執愛を注ぎ込む

(こうやって簡単に嘘をつく僕を、葵ちゃんは幻滅するだろうな)

梨々香という仮面の恋人を作り、煩わしい誘いや思惑にハマらないように過ごす。
彼女の恋心を利用して少なからず罪悪感はあるが、会社のためだ。
そんなことは言ってられない。

「実はね須和君っ、君に今日は相談事があったんだ」

「……相談事?」

酔いが回った状態で羽柴が須和のところにやって来た。ちなみにこの男は梨々香の父親である。

「先日マカオで開催されたパーティで、ある男と意気投合したんだ。
“ニッキー・ハォウ”という名前なんだけども」

「! ニッキー・ハォウって……シンガポールの有名な富豪ですよね?」

アジア屈指の有名富豪一族の御曹司だ。
実業家としても成功していて、経済紙でもよく取り上げられている。

「さすが、知っていたか。
それで彼に、私たちが手掛けた“ベリーヒルズビレッジ”の話をしたらとても興味を持ってね。
是非、シンガポールでも似たようなものを作ってくれないかと申し出があったんだ」

「そうなんですね……」

よくこんな場所でこんな大事な話を……と須和は内心驚く。

「もう話は読めたと思うが、君のノウハウが必要だ。是非協力して欲しい」

「それは、もちろんです。素晴らしい案件を持って来て下さって感謝しかありません」

羽柴は須和の返事にんまりと笑い、手に持っていたグラスをごくごくと飲み始めた。

「君も海外拡大が出来るし、一石二鳥だ! これから忙しくなるぞ~!」

「……」

経営者としてはこの上なく嬉しい話なのだが、一個人としてはいつ休める日が来るのだろうと思ったりもする。

(またしばらく行けなくなるな)

目を瞑ると、葵の笑顔が浮かび上がる。

「……」

大きく息を吐いて、須和は再び口元に笑みを浮かべたのだった。