独占欲に目覚めた御曹司は年下彼女に溢れる執愛を注ぎ込む

心臓が止まってしまうかと思うくらいの衝撃だった。
口は動くのに、声が出ない。

(の、のうしゅよう?)

「いやぁ、絶対ビビらせちまうと思って言いたくなかったんだよ。
けど言わないのもなんだか悪い気がしてな」

「……そ、それは言ってもらわなくちゃいけないことだと思うけど……。
それで、お父さんは大丈夫なの……?」

遅れて嫌な汗が噴き出てくる。元気の象徴である父が、病気……?
葵は信じられない思いでその張本人を見つめた。

「ああ、有難いことに良性で経過観察だけで今のところ大丈夫みたいだ。
大きくなったらその時考えようって医者に言われてる」

「そうだったんだ……」

(全然、知らなかった。毎日一緒にいたのに)

「……いつくらいだったの? 病気が分かったのは」

すると利光は振り返るように、視線を宙に浮かせた。

「一カ月くらい前に頭痛が酷い日があって、念のために内科に行ったんだ。
そうしたら、一応脳も調べてこいと言われてな、それでようやく先週に」

「そっか……」

(でも良性なら安心した。お父さんも元気だし、経過観察ならよかった)

一度母の由紀子を亡くしている葵は、父の利光を失うことが何よりも怖い。

「お父さん、でも絶対に無理しないでね。
私も出来ること増えたんだし、なんでも言って欲しい」

切実に訴えると、利光はいつもの様にあっけらかんと言い放つ。

「いいや、お前にだけは頼らないって決めてるんだ。
俺が倒れたら店を畳むぞ」

「えっ、それは絶対に許さないから」

いつも通りの憎まれ口に、葵は密かにほっとしていた。

(私……須和さんのことばっかりで、お父さんの変化に全然気づけなかった。
明日からは気を引き締めていこう)

夢は、この店を守ること、広めていくこと、そして三つめは……。

(……お父さんを支えなくちゃ)

酷く落ち込んでいた心を奮い立たせて、葵は自分に渇をいれたのだった。