「葵ちゃん?」

「……」

(どうしよう、なんか泣きそう)

須和は立ち止まった葵の顔を覗き込んで、心配そうに瞳を見つめてくる。
その優しささえ、今の彼女にとっては苦しいものでしかたなかった。

「ごめん、俺ふざけすぎたかも」

「……い、いいえ。その……」

(せっかく楽しいデートだったのに、これじゃ台無しだよ)

潤んだ瞳でチラリと見上げると、須和はポンポンッと頭を撫でてくる。

「何でも言って、葵ちゃん」

(あ……また、子供扱い……)

葵の胸がギュッと締め付けられる。オシャレした姿も、頑張って作った和菓子も、少しでも成長した姿を見せたかったけど……。

(もう、いいや……)

「……須和さん、あの」

視線を合わせて、なんとか口に出す。

「どうしたの?」

「……きです」

「え?」

「好きです、須和さんのことが」

「……っ」

須和の瞳は、一瞬動揺で揺らめいた。
葵は見ていられなくて、フイと視線を逸らした。

「須和さんは違う意味で、私のこと大切にしてくれてるっていうのは分かってます。
けど……私は須和さんのことが好きなんです……ずっと前から」

「葵ちゃん……」

「……須和さんに相応しくないって、重々承知だから……。
だから……一度だけ、キスしてくれませんか?」