須和は至近距離で葵の瞳を見つめて、意味深に微笑んでいる。
ただ見つめるしかできない葵に、須和はそっと口を開いた。

「……月が綺麗とか安易に男に言わない方がいい。比喩して愛してるって意味だから」

「えっ!?」

「悪い男に付け込まれるぞ」

クスクスと笑う須和に、葵の顔が真っ赤に染まった。

「そ、そうだったんですね。私、全然知らなくて」

「ううん、葵ちゃんらしいなって思ったよ。本当に好きな人にしか使っちゃだめだからね」

「……」

(本当に好きな人……須和さんはもう二年前のこと忘れちゃったんだ)

葵の脳裏に、二年前の出来事が蘇る。
須和が大人になるまでキスを待ってくれると言ったあの時のことを。

(私はずっと須和さんのことを想ってた。
でもあなたは大人だから、あの場だけの言葉だったの……?)

じわじわと悲しみが体中を巡り、葵は無意識に足を止めていた。