葵が須和に渡したのは、扇と鶴を模ったお千菓子だ。
砂糖の表面を自由に表現できる面白さを見つけ、ここ最近は夜な夜な製作している。

「これ、部下たちにも食べてもらうよ。葵ちゃんの和菓子は本当に美しくて評判がいいんだ」

「そうなんですか!? 嬉しいです」

葵は少しずつだが利光に認められ、自分が考えた商品も一つお店に置かせてもらっている。

「そういえば……葵ちゃんに会わせたい人がいるんだよね」

「えっ、私にですか?」

須和はスマホで検索を始め、画面に表示された洋菓子の写真を葵に見せた。

「あ、ここ知ってます。フランスの有名なチョコレート店ですよね」

「そう。僕はここの社長と知り合いで、この前出張に行った際に会ったんだ。
丁度葵ちゃんが作ったお菓子を持っていったら、とても興味を持っていてね。
次に日本に来た時に会いたいと言っていた」

スケールの大きすぎる話に、頭がパニックになってくる。

「そんなすごい人が……! 嬉しいですけど、なんだか恐縮しちゃうな」

「素直に喜ばしいことだよ。葵ちゃんはもともと才能があったし、いつかはこうなると思ってた」

そう言う須和はどこか誇らしげだ。微笑みながら彼は言葉を紡ぐ。

「ちょっとだけ寂しい気持ちもあるけど、僕は応援してる」

「えっ……?」

(寂しい?)