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「……須和さん、ビルの前に何か作ってるんですか?」

葵はヘリコプターから出た直後に、SUWAビルの周辺で工事が行われていることに気づいた。

「うん、再来春に複合タウンができる予定なんだよ」

「へぇ……複合タウンって、小さな街ができるっていうことですよね」

「そうだね。病院とかレジデンスとか、あとはショッピングモールも予定されてるよ」

「すごいなぁ……!」

(楽しみだな、どんな街になるんだろう)

葵が目を輝かせていると、須和は少し寂しげな表情を浮かべた。

「本当は、そのショッピングモールに『天馬堂』の出店も打診したんだ。おじさんに」

「えっ……」

初耳だった。
葵は利光から何も聞かされていなかったし、複合タウンができることも今知ったばかりだ。

(もしかしてあの時……?)

思い返すと……由紀子の四十九日が明けた頃、須和と利光が一度だけ休憩所で長話していたことがあった。

「でも、やっぱりダメだったよ。由紀子さんが亡くなったばかりで。
それに……おじさんは二店舗目は由紀子さんの夢だったから、自分の手で叶えたいと言った」

「そうなんですか……?」

「既に物件の目星も付けて、資金も貯めていたことも教えてくれたよ」

「!」

知らない――私、そんなこと。
須和さんには話せて、私には言わないんだ。

父と子だけれど、利光を一緒に頑張ってきた仲間と思っていた葵にとって、
何も知らされていなかった事実は、寂しいと思わざる得なかった。

(私が子供だから? 頼りないから……?)

ショックで口をつぐんでいると、須和はそのことを察して慎重に口を開く。

「……今はこんな状況になって、二店舗目を出すことは考えられないかもしれない。
けど、またその時が来たら僕も応援する。何か手助けできるならしたいと思っている」

「須和さん……」

須和さんは、優しい。
本当に天馬堂を愛してくれてるのだと分かる。
でも、普通ならここまでしてくれるものだろうか。

「……須和さんは、なんで私たち家族にこんなによくしてくれるんですか?」

葵は、ふいに疑問に思ったことを彼に投げかけてみた。