「……もっと観光客に寄せた商品を作ってみたら面白いかもしれないな」

「え?」

驚く須和に、葵はうっすら笑みを浮かべた。

「夜景を見てたら、お菓子が作りたくなってきました」

「……葵ちゃん」

「須和さん……また今度、私のお菓子試食してもらえませんか?
最近作ってなかったから、ちょっと腕が落ちてるかもしれないですけど」

葵が照れながら提案すると、須和は嬉しそうに優しく目を細める。

「もちろん、僕はもう君の和菓子のファンだ。いつでも歓迎するよ」

「ふふっ、ありがとうございます……」

夜景の光で一瞬だけハッキリ見えた須和の瞳が、葵の瞳を捉えた。

(須和さん。私は……あなたのことが好きなんだと思います)

葵はそっと視線を逸らし、須和の肩に頭を預ける。

わずかな時間二人は恋人のように寄り添い合い、
果てしなく続く東京の夜景を眺めていたのだったーー。