須和は熱い視線を葵に向け、笑っている。
今まで見たどんな表情よりも色っぽく、葵はもう何も言えなかった。

(須和さん、本当に......?)

すると須和はふいに、視線を葵から窓の外へと変えた。

「葵ちゃん、結構高いところまできたよ。見てみて」

「あ、はい……!」

(そうだ、せっかく乗ってるのに)

窓の外を恐る恐る覗くと、葵は大きく目を見開いた。

(えっ……)

「綺麗……すごく綺麗です、須和さん!」

「うん、この東京でしか見られない景色だ」

(東京ってこんなに綺麗な場所だったんだ)

窓の外に広がる都会の光は、とても小さく……星のようにキラキラ輝いていた。
葵は一瞬自分が星の一部になったような気持ちで、その景色を眺める。

「……お母さんが見てる景色は、こんなに綺麗なものなんだ」

「そうだよ」

「……」

(きっとこうやって、天馬堂のことも見てくれてるのかもしれない)

由紀子は、もっともっと天馬堂のお菓子を広めたいと思っていた人だった。
道半ばだったけれど、きっと今もそう思っているに違いない。

葵は自分の瞳を照らす無数の光を眺めながら、胸の奥が熱くなるのを感じた。

(この光の数だけ、人が居るんだなぁ......。
この人たちに自分が作ったお菓子を知ってもらったら、お母さんは喜ぶだろうか)

視界に入った東京タワーを見て、葵の意識はよりはっきりしたものになっていく。