「では、離陸します」

操縦士の一声で、ヘリコプターはゆっくりと上昇していく。
強風が機体を揺らし、葵の体は須和の方向に大きく傾いた。

「きゃっ……須和さん、すみません!」

(うわぁ、身体が密着してる……!!)

「ううん、僕は大丈夫。葵ちゃん痛くなかった?」

「わ、私は平気です」

葵が火照った顔を上げると、須和の心配そうな顔が目の前にあり、心臓が跳ねる。

(本当に、綺麗な瞳……)

漆黒の瞳に吸い込まれ、思わず見つめていると、須和が小さく笑った。

(えっ……)

「葵ちゃん、可愛い」

「!」

須和の低くて艶のある声が鼓膜を揺らし、心臓が早鐘を打つ。
そのままスルリと長い指が葵の頬に添えられ……彼は顔を傾けた。

(キス、される……?)

目を瞑り身構える。須和の体温は近くに感じるけれど……それ以上に近寄ってこない。

(須和さん?)

目を開けようとした瞬間。
頭を優しく引き寄せられて、葵は広い胸の中にポスンと沈められた。

「!?」

「キスしたくなったけど、やめておく。君はまだ未成年だったね」

「……っ」

須和は葵を胸の中に抱いたまま、ポンポンッと頭を撫でてくる。
彼女は恥ずかしさと悔しさで、身体がカッと熱くなった。

(須和さん……私のことやっぱり子供だと思ってるんだな。仕方がないのかもしれないけど)

「じゃあ、大人だったらキスしてくれたんですか……?」

葵は顔を埋めたまま、須和に訊ねる。
大胆な発言だと自分でも思ったが、彼の腕の中にいるからこの真っ赤な顔を見られることはない。

須和は一瞬黙って、ゆっくりと身体を離す。

「うん、葵ちゃんが大人だったらしてた。その時まで待ってるね」

「……っ!!」

(それはどういう意味なんだろう?)