柾に限ってそんなことはあり得ないと信じてはいたのだけど、妊娠中は普段よりも感情の揺れがある。悩みやすい葵は、柾が他の女性に会っているのではないかと、不安に陥っていた。
とはいえ九カ月間、柾の仕事を応援しつつ必死で平常心を保とうと葵は言い聞かせていたのだが、昨晩ついに張り詰めていた糸が切れたのだ。

事情をかいつまんで話す葵を見つめていた柾は、そっと彼女の腰を抱き寄せた。

「柾さん……?」
「葵を不安にさせている自覚がなかった。自分なりに気持ちを伝えていたつもりだったんだけどね、ごめん」

骨ばった大きな手は、せり出した葵のお腹を優しく撫でる。
生地越しに伝わってくる彼の体温に心地よさを感じていると、ふいに覗き込んだ切れ長の瞳と視線が重なった。

「やっぱり俺、葵の出産に絶対に立ち会いたいんだ。少しの時間だけど育休を取るためにも動いている。だから最近帰りが遅くなっていた」

「え!?」

多忙な柾が出産の際に立ち会うなんて夢にも思わなかった葵は素っ頓狂な声を上げる。
しかも、育休所得までだなんて。

「本当に……!? 一緒にいてくれるの?」
「うん、葵が小さな体でこの赤ちゃんを守ってくれていたんだから、生まれる時も、生まれてからも……できる限りのことはしたいと思っているから」
「柾さん……」