独占欲に目覚めた御曹司は年下彼女に溢れる執愛を注ぎ込む

そんなある日、葵に転機が訪れた。


『なんかね、私の和菓子を紹介してくれたセレブの方がいらっしゃったみたいで、今日はすごく人が来たの』

そう葵が須和に告げたのは、シンガポールに旅立ってちょうど一年が経った頃だ。

シンガポールでちょっとした話題になっていた葵の和菓子が、SNSを通じて拡散されてはいたのだが。

ニューヨーク出身の世界的歌手が大絶賛のコメントとともにインスタにアップしたことで、それは爆発的なものになった。

影響力は凄まじかった。

若者を中心に店にやって来て、葵の作る和菓子の写真を撮る。
味も好評を博し、しだいにシンガポールの観光名所とまでなったのだ。

葵はその勢いに乗り、次々と新作を世に出した。

言葉の壁は自信と経験でいつの間にか消え去って、彼女の悩みはスケールの大きいものへと変わっていく。

『次はフランスに出店の話が来てるんだ。柾さん、どう思う……?』

「いいんじゃないかな、フランスは多くのパティシエがいるし、コラボのオファーがあるかもしれないよ」

『そうかな』

「弱気になっちゃだめだよ。やってダメだった時に考えればいい」

『そうだよね、柾さん』

「……」

(まただ……言いたくもないのに)

葵に嫌われたくない一心で、口では叱咤激励する須和だったが……。

内心、自分の手を借りず上手くいくことが、寂しくも苦痛だった。


(すぐそばにいたら、こんな思いをせずに済んだのか?)