独占欲に目覚めた御曹司は年下彼女に溢れる執愛を注ぎ込む

(嬉しい、須和さんに美味しいって言ってもらえた)

「これからもお菓子作り頑張ってね、応援してる」

「はい……!」

葵が顔を真っ赤にして須和にコクコクと頷いていると、由紀子は小さく笑った。

「はい、じゃあそのお菓子たち返してね。今から綺麗なお花と写真に収めないといけないんだから」

「ああ、そうだったんだ。ごめんね由紀子さん」

「もう、お母さんったら……」

普段は静かな病室に、賑やかな笑い声が響く。
由紀子はいつになく饒舌で、三人で過ごしている間、ずっと眩しい笑顔を見せていた。

(お母さんすごく楽しそう。須和さんともすごく仲がいいんだな)

一時間ほどが過ぎた頃、葵と須和は席を立った。

「……お母さん、それじゃあ来週ね」

「由紀子さんお大事に。また近いうちに来ます」

「ええ、楽しみにしているわ。
柾君、うちの子を頼むわよ」

「!?」

「由紀子さん、分かりましたよ。葵ちゃんは僕が責任をもって守りますから」

「よろしくね」

「……またお母さん変なこと言ってるし。須和さん気にしないでくださいね」


由紀子は、二人が扉を閉めるまでニコニコと笑顔を浮かべていた。

(こんなに元気なお母さん、久しぶりに見たなぁ。
このまま病気が治っちゃうなんてこと、ないのかな……?)

葵は微笑みながら淡い期待を抱く。



****




……しかしその晩、葵の期待は呆気なく打ち砕かれた。
由紀子は突発的な心臓発作を起こし、帰らぬ人になったのである。

(お母さん、なんで。昼間はあんなに元気だったのに……。
三人で楽しく話をしてたじゃない)

昼間のあたたかい春の日が嘘のように、見上げた漆黒の空から冷たい雨が降り続いていた。