葵は前を向いているので顔は見えないが、須和は笑っているような気がする。

「待って柾さ……ぁ」

ファスナーが下がっていくたびに、淡い口づけが落とされて葵の身体は小さく震える。

最後まで下ろされる頃には、葵の身体は桃色に染まり、虚しくも鏡にはその姿がハッキリと映し出されていた。

「葵も見てみて。自分の可愛い顔」

須和は悪魔の囁きとともに、葵の顎を掴んで無理やり前を向かせた。
可愛い、なのかは分からないが確かに恥ずかしくなるくらい蕩けたような顔をしている。

「柾さん、あんまりいじめないでください」

「いじめてないよ。せっかくだから葵に見せてあげてるだけ」

耳元で囁かれそのまま耳朶を食まれる。
舌先で丁寧になぞられてその甘美な感覚に葵は成すがままだ。

柾さんは優しい人。というより昔からずっとずっと優しかった。私にも、家族にもーー。

けれど最近はこうしたいじわるな一面を覗かせたりもするのだ。

葵は色んな彼の顔を見るたびに、沼に沈んでいく感覚を覚えた。
もう今までの自分とは違う。
頭では仕事を頑張ることや、父親を支えなくてはというのは理解しているのに、
ただずっと須和と一緒にいたい気持ちが、勝っている気がする。

(このままいったら、私どうなっちゃうんだろう)