もうすぐバレンタインということもあり、街の様子はどこか浮き立っていた。

「せっかくだから見るんじゃなくて、葵の気に入った洋服をプレゼントしたいんだけど」

“ウィンドウショッピングをしたい”という葵の二つ目の要望は、こうして変更された。
彼女は申し訳ないと躊躇ったけれど、最終的には強引に店に連れていかれる。


「うん、よく似合ってる。君の白い肌に映えるね」

ベルベッド色の肩が開かれたドレスに身を包み、
葵は二度、三度、須和の前で体を回転して見せる。その度にキラキラとラメが煌めいた。

「すごく可愛い……私、これにしたいです」

「いいよ、待ってるからゆっくり着替えてきて」

今葵が着ているドレスは、明日ミッシェルに会う時用のものだ。
セレブに会うというのだから、それなりのものを着る必要があるだろう。
葵はそう理解し、須和の言葉に甘えることにした。

(よかった、素敵なドレスに出会えて)

葵は試着ルームに入り、背中のファスナーを下ろそうとする。
けれど……。

(あれ? 下がらない)