もちろん彼女に渡す用のお菓子も用意しているのだが、葵は腕がなまってしまわないようにと、以前のようにいろんな種類のお菓子を作るようにしていたのだ。

「葵、会ってない半年で色んなものを作れるようになったよね。
しかも全部、天馬堂の味をちゃんと表現できているし」

「そう言ってくださって本当に嬉しいです。
お父さんが病気と分かってから、私が継ぐつもりでがむしゃらにやってきましたから」

葵の父、利光は術後の経過が順調であと半月で退院する。
利光が退院して家に戻ったら、葵も須和の家に通うことはできなくなるだろう。

また以前の日常が戻って来るーー。
ただ、生活の中心にあった『お店(・・)』がないのだ。

(今までは柾さんに頼ってばかりだったけど、ここからは私がなんとか家を立て直していかなくちゃいけない)

葵はそう、強く思うようになっていた。