須和は黙って震える葵の瞳を見つめ、意を決したように口を開く。

「葵ちゃんのことが好き、僕と一緒にいてほしい」

「!」

(須和さん……)

喜びで心が満ちて、今すぐにでも頷いてしまいたい。
けれど。

「梨々香さんは……?」

葵が最も気持ちを自制してきたのは、須和の彼女だとされる梨々香の存在だ。
いくら想い合っていたとしても、他の人の大切な人を奪ってしまうのは間違ってると思う。

すると須和は神妙な面持ちで、葵に語り掛ける。

「手紙、見たよ。葵ちゃんは何か勘違いしてる。
俺と梨々香は付き合ってない。今まで一度もね」

「えっ……」

(どういうこと!?)

「絶対に梨々香と付き合うことはない。それは彼女も知っていることだよ。
理由は後からいくらでも説明できるけど……」

「そうだったんですか……?」

拍子抜けして、肩の力が抜けていく。

(一体どういうこと?)

呆然としている葵を、須和は熱い眼差しで真っすぐ見つめた。

「もう見守るだけじゃなくて、君を自分の手で守りたい。……ダメかな?」

(須和さん……)

「だ、ダメじゃないです……けど、本当に?」

「うん、本当に……全部僕に預けて。絶対に君を幸せにするから」

「……っ」

須和に慈しむように微笑まれて、葵はじわじわとこの状況が現実味を帯びてきた。

(いつもの須和さんだ……)

「嬉しいです。すごく……私もずっと須和さんのことが好きだったから」


ずっと胸に秘めていた言葉を伝えて、心がスッと軽くなっていくの感じる。
そんな彼女の身体を、須和は優しく包み込んだ。

「……ありがとう。君の気持ちに応えられてすごく嬉しい。ずっと一緒にいて、葵ちゃん」

「はい……」



(私、須和さんと一緒にいられるんだ...…)



互いの想いを伝え合うように強く抱きしめ合っていると、チラチラと粉雪が降り始めた。

「雪」

葵の身体は、重なり合う体温で少しも寒さを感じない。

心に吹き荒れていた寂しさも、いつの間にか消え去って……、
幸せの感情だけが心を満たしていたーー。