「!」

顔を上げた須和に熱い眼差しを向けられ、葵の鼓動は大きく跳ねる。

「葵ちゃん、大変だったね。いつから? この状況になったのは」

「……あ、えっと……須和さんと最後に会う少し前に、お父さんの病気が分かってそれで……」

「……」

須和は小さく息を吐き、傷ついたように笑う。

「……僕はなんにも知らずに、君を一人にしてしまったんだな。守ってあげられなくてごめん」

「……っ」

その言葉に葵が打ちひしがれていると、須和はまっすぐ葵の瞳を見つめた。

「中途半端な態度で君を傷つけて、僕にはもう君に会う資格がないのは分かってる。
……けど、やっぱり葵ちゃんに会いたくて今日ここにやって来た」

「須和さん……」

「この半年、ずっと君のことが頭から離れなくて、ようやく自分が恋してるんだと気づいたよ。
僕は君に嫌われることが怖くて、逃げてただけだったんだ。
……ずっと君のことが好きだったのに」

「……っ」

(私のことが好き……? 須和さんが?)

『君の前では優しい自分でいられる。けど、本来の僕は全く違う』

初めてキスされたときに言われたセリフが、葵の脳裏に蘇る。

確かに、須和のことを葵はほとんど知らないかもしれない。
お店にいるときのわずかな時間だけなんだから……でも。

「私は……どんな須和さんを見たとしても嫌いになったりはしないですよ」

「え……?」

須和は驚いた表情で、葵の瞳を見つめる。

「私が知らない須和さんは、酷い人なのかもしれません。
けど、私にくれた時間は全部優しくて、温かったです」

この二年間、何度須和に助けられただろう。私も、家族もーー。

「……」

「あなたがどんな人でも、私にくれた時間は絶対ですから……」

「……葵ちゃん」