年の瀬が近い、十二月下旬のある日。

築六十年の古びた木造家屋に、厳しい隙間風が吹き抜けていった。

「今日で本当に終わっちゃうんだなぁ……」

東京品川区の端にある、老舗和菓子屋『天馬堂』――。

一人娘の天馬葵(てんまあおい)は、薄暗い厨房でポツリと独り言をつぶやいた。