昔、川に小瓶を流した。

 幾度も。

中には手紙。
「これを拾ったひとはお返事ください。」

たしか‥そんな内容だったと思う。
時には友達と一緒に流したりもしたが大抵は独りでこっそり‥というふうに。ちょっとした秘密の冒険なのだ。
小瓶を水に放つ瞬間のあの何とも言えぬ緊張感─小川をさらさらと流れゆき‥ゆらゆらとさ迷いながら‥‥やがては大海へと押し流され‥と共に時は流れ‥ゆうゆうと荒波を乗り越えた小瓶はいつか必ず浜辺にたどり着く。そこを通りかかったどっかの誰かがそっと拾い上げ、遂に手紙は開かれるのだ──もう、その滑稽な想像だけで私の小さな胸はワクワクと踊った。どうやら、幼い私はちっぽけな用水路の水面に果てしなく広い世界を映し出していたらしい。そういえば‥あの頃の私は昨日なんてどうでもよくて。常に明日を見ていた。それが当然だった。いつの間に‥過去にこだわる私が生まれたのだろう‥と最近ふと思う。だけどまあ、それをネガティブとは呼ぶまい。なんてったって過去は紛れもない事実なわけで。未来なんかよりずっと信用出来る、そう信じて過去とともに歩むしかないのだろう。



あの小瓶は今頃‥
どこでどうしているのだろう。

現実という壁に行き詰まってしまったかな‥それとも、絶望という泥沼に埋まってしまっただろうか。




 いや、もしかすると今も尚、未来へ向かって流れ動いているかも知れない。