麗しの彼は、妻に恋をする

柚希の展示物をさらりと見渡した彼は、「これは。あなたが?」と微笑んだ。

「は、はい」

接客は苦手だった。
なにかを聞かれれば答えることはできるが、自分から何をどう話しかけたらいいのか皆目見当がつかない。

人形のようにガチガチに固まっていると、素敵な客は「これとこれと」と言いながら、カップや皿をすっと数センチ手前に引く。

あれよと言う間に、彼がそうして選んだ品はカップが二客に豆皿に小鉢に大皿を一枚。

そして彼はレジを振り返った。

マルちゃんがいるレジはちょうど混み合っていて、雑貨を買い求めるお客さまが三人ほど並んでいる。

「ちょっとね、時間がないので――」
そう言った彼は、スーツの内ポケットに手を差し入れて、財布から現金を二万円出した。

「これでちょうどかな」

「あ、えっと」
計算が追い付かない。

「大変申し訳ないけれど、時間がないので届けてくれるだろうか? 今日じゃなくても構わないし、着払いで送ってもらっても構わない」

「は、はい」

彼は名刺を差し出した。