麗しの彼は、妻に恋をする

冬木は少し考え込むように黙り込む。

その様子に、柚希は呆れられたのだろうと思った。

それはそうだろう。
社会に出て数年間、なんの仕事にもつかず秀でた才能もないのに陶芸に明け暮れていたのだ。

「あはは。甘いですよね。正社員はあきらめて、とりあえずアルバイトでもしようと思います」

笑って誤魔化して、ぐい呑みの日本酒をあおるように飲み干した。
喉とお腹が、カッと熱くなる。

「私、馬鹿なんですよ。自分はどうでもいいけど、大切な人のことをすっかり忘れていたんですよねー。お祖母ちゃんはいつまでも元気でいると思ってた」

――そう。いい大人になったのだから、守ってあげなければいけないのに。
ほんと、情けない。


「そっか、じゃあ僕と結婚でもする?」

ふいに彼がそう言った。

「へ?」

聞き違いかと思った。

ぐい呑みとはいえ日本酒の一気飲みなんてしたから、理解力が落ちているのだ。

この前の愛人の話を蒸し返されるならまだわかる。
でも結婚は、ありえない。