麗しの彼は、妻に恋をする

「祖母が膝を痛めて入院してしまいまして。あ! その日が個展の最終日だったので、ご挨拶に来れなくてすみませんっ」

「はいはい。それで、おばあさんは大丈夫なの?」

「ええ。少し入院するようですが大丈夫です」

前にも話したなと思いながら、身内には祖母しかいないことを話した。
大学まで出て就職もせずに陶芸という好きな事をできているのは、その祖母の協力があったからということ。祖母には祖父が残したいまの家しかないこと。

入院は三週間程度の予定なので、そろそろ退院にはなるが、かといって今までのパートに祖母が復帰するのは無理だということ。
そして、なんとか祖母を安心させたいということ。そのひと通りを話た。

「いつも元気で笑っていて、祖母は私に何も言わないんですけど、今更のように現実に気づいて……。せめて安定した収入を得られる定職につこうと思ったんです。陶芸は益子で借りている家と行き来しながらすればいいかなって」

「面接に行って、どうだった?」

「笑っちゃうほど全滅でした。世の中そんなに甘くないってことを体感しました」