麗しの彼は、妻に恋をする

「うん。このカップだけはね。他はカフェで使うように渡してしまったけど」

「うれしいです。ありがとうございます」

それは、個展で彼が買ってくれた白いマグカップだった。

まさか彼が使ってくれるとは思ってもいなかった。自分でも驚くほどうれしくて体が震えそうになる。

気を落ち着けながらミルクたっぷりのカフェオレを口にすると、お腹と心が落ち着いて来た。

「バスローブ、やっぱり大きいね」
彼はクスクスと笑う。

「――あ」

言われて腕を上げると、袖からはほんの指先しか出ていなかった。

彼は柚希のもとに来てバスローブの袖に手を伸ばす。

袖をまくってくれる至近距離の彼が眩しくて、ドキドキと固まっているうちに、うな重は届いた。



ダイニングテーブルに並べられたのは、柚希のうな重と、彼はうな重ではなく鰻だけの白焼きのようである。
その他にも、重箱に詰められていた和食の数々。原形をとどめている物はなく、どれもこれも繊細に作りこまれている。
そしてとても美味しそうだ。
「すごい!」