麗しの彼は、妻に恋をする

「はい。おかげさまで。すみません、ドライヤーもお借りしました」

「コーヒーでいい? 紅茶のほうがいいかな?」

「あ、えっとコーヒーで。すみません……」

「ミルクとお砂糖はどうする?」

「ミルク多めで」

「了解。じゃあカフェオレでいいね」

柚希が頷くのを見届けてソファーから立ち上がった彼は、キッチンへと向かう。

残された柚希は彼が見ていた雑誌をちらりと見た。

それは美術関係の雑誌のようだったが、日本語でも英語でもなく、恐らくはフランス語。
英語だけでなく彼はフランス語も話せるということか。

よくわからないが、御曹司とはきっと、こういう人のことをいうのだろう。

綺麗で優しくて、歌声は甘くて気が利いて、パーフェクトな人。
世の中広いというか、いるとこにはいるんだなぁ。と、しみじみと思う。

「はい。どうぞ」

コーヒーの香りを纏いながら彼は、カップを持って戻ってきた。

「あ、このマグカップ。使ってくださっているんですね」