麗しの彼は、妻に恋をする

そうですよ、なにが悔しいっておにぎりをやられたことが悔しいんですから。

「食べ物を無駄にしてはいけませんでしょ」

「まぁそうだけど、顔に泥がついたことよりショックなんだなぁと思ってね」

「泥が怖くて陶芸家はやっていられません」

「おおー。勇ましいー」
ケラケラと彼は笑う。

「ちょうどこれから帰るところだから、うちで何か食べて言ったら?」

「いやぁ、でも、申し訳ないですし」

「僕もこれから食事だし、鰻でも出前をとろうと思ったんだけどね」

――えっ、ウ・ナ・ギ?

「それか寿司か。まあ、無理にとはいわないけど」

――ス・シ?

体は正直だ。ゴクリと喉の奥が鳴る。
キュルルと、お腹も鳴った。

「あはは、素直だねぇ本能は。今更遠慮もないでしょ」

ぐうの音も出ないとはこのことである。

「――そ、それは、そうですね」

頭の中は鰻と寿司でいっぱいである。
やむなく柚希は彼の好意に甘えることにした。



「とりあえずシャワー浴びておいで」

「え、それは……」