麗しの彼は、妻に恋をする

折りたたみの傘は持っているし、ほんの少し傘を斜めにするだけで、口元を隠すことができる。

なにをかくそう朝握ったおにぎりが、バッグの中に二つある。

――こっそり食べながら歩こう。

「おにぎり、おにぎり~」

ルンルンと呟きながら歩きはじめた。

すきっ腹に、梅干し入りのおにぎりが沁みる。

「ああ、美味しい」

――さあこれからどうしようか。

一旦着替えに帰って、祖母のお見舞いに行くこと以外は決めていない。
また就職情報誌を買って電話をするか。ネットで探すか。

そんなことを考えながら歩いていると、アルバイト募集の張り紙が目についた。

時給のバイトでも、掛け持ちすればそれなりの収入も見込めるだろうし、一生働こうというわけじゃない。

――アルバイトなら、雇ってもらえるかな。
この際だから実益を兼ねて、お弁当屋さんとかお総菜屋さんとか、あるいはパン屋さんとか?

少しワクワクした時だった。
スピードを出した車がバシャッとしぶきを飛ばして走り去る。

「へ?」