麗しの彼は、妻に恋をする

首を回して振り返れば、前回見惚れた濃い紅色の器があった場所には、鮮やかな伊万里の器が展示されていた。

――うわぁ。

「お二階もどうぞ。今週はちょうど幸村先生の個展も開催していますから」
「ありがとうございます」

幸村先生は益子を拠点としている先生だ。陶器のこととなるとつい夢中になってしまう。


あっという間に時間は過ぎた。

安心できたこともあったのだろう、クゥと情けない音をたてるお腹の主張に我に返り、時計を見れば二時間ほど針が進んでいた。

いい加減にして、帰らなければ。

美しい器に心を奪われる夢の時間はもうおしまい。
さぁて現実に戻ろうと、重い腰を上げるような気分で柚希は外を振り返った。

「――あ」

いつの間に降り始めていたのか、道行く人の傘が見える。

いまはそれほど強い雨ではないが、結構降ったのだろう。通りへ出てみると道路の端には雨水が溜まっているようだ。

でも、ちょうどいいと柚希は思った。

がっかりするどころか、むしろラッキーだ。