麗しの彼は、妻に恋をする

あれこれ考えて、唖然とした。

――なんということだ!

器をカフェで使ってくれるという大切な取引先に、私ったら散々世話になっておいて、まだお礼すらしていない!

慌ててバッグから財布を取り出した。

大丈夫。
何かの時のために一万円という大金が手付かずで入っている。

これを熨斗袋に入れて、手ぶらではいけないので、まずは菓子折りでも買わなければいけないけれど、その分はカード払いにすればなんとかなる。
服装だって紺色のリクルートスーツなのだから問題はない。

というわけで、柚希は慌てて立ち上がった。

まずは目に留まった洋菓子店で、焼き菓子の詰め合わせを買う。

五千円プラス消費税という眩暈がするような高級品は、冗談みたいに小さいけれど、お詫びの印なのだからケチケチしてはいられない。

近くにコンビニはなさそうなので仕方なく目についた和風雑貨店で買った熨斗袋はこれまた千円近い高級品だった。これも痛い。

でも、既に一刻を争う状態なのだから文句は言っていられない。