一歩踏み入れたそこはもう煌めく異空間。入口ですでにお前は場違いだと弾き出されそうだった。
めげずに面接会場まで行った自分を褒めてあげたいくらいである。

「――ふぅ」

バッグから取り出したボトルの中身は、味も色もない祖母の家の水道水。カランカランという氷の音をたてながら、渇いた喉を通っていく。

そういえばここも、ベリーヒルズかとあらためて思った。

冬木陶苑はこの位置からは見えない。

ばたばたしていてすっかり忘れてしまっていたけれど、お礼には行こうと思っていた。

――愛人の話はまぁ、冗談だろうからね。

倒れたところを助けてもらって、お医者さまにも診ていただいて、カフェでご馳走もしてもらったのだから。

――あ。
いつかいつかと思いながら忘れていた。

もしかして私って、なんかものすごく非常識?

そういえば、点滴までしてもらったのに、その医療費も払ってない。
点滴っていくらするんだろう? 千円? 三千円? でも保険証出していないから実費だよね?