麗しの彼は、妻に恋をする

「あれ? 深いため息ですね。大丈夫ですか柚希さん。疲れましたよね」

「違う違う、大丈夫。あ、そういえば、マルちゃんとは今日でお別れ?」

「そうなんですよ。私、明日はお休みだから」

数日とはいえ長い時間一緒にいたのだから、別れは寂しい。
マルちゃんは写真投稿サイトのアドレスを教えてくれた。

「ベリーヒルズのカフェ行った時、柚希さんの器があったら記事にアップしておきますからね」
「ありがとう」

「それにしても良かったですね。あのカフェに置いてもらえるなんて、すごい名誉ですね」
「うん」

「いつかは本店を目指してがんばってくださいね」
「あはは、ありがとう」

――がんばったら、そんな日が来る?

陶苑に並んでいた素晴らしい作品の数々。
カフェの器ももちろん素敵ではあったけれど、その差は大きい。

陶苑とカフェの間に横たわる隔ては、細い小川ではなく途方もない大河だ。

才能の差だけじゃない。
飽くことのない努力と積み重ねでできた結晶だ。

そのどちらも何もかもが自分には足りないと思い知った。