麗しの彼は、妻に恋をする

そういうことであれば、あとは愛人を作ろうが結婚しようが、それが冗談であろうが、夏目にも冬木陶苑にとってもたいした問題ではない。彼が彼である限り、なんの問題もないのだ。

「それで、その件について私はなにかすることはありますか?」

「彼女はいま個展をやっていてね、本当に愛人になる気があるなら最終日。えっと十七日の夜に、ここに来るように伝えてある。来た時は君に紹介するよ」

「わかりました」

夏目はスーツの内ポケットから手帳を取り出し、十七日の夜に柚と記し、桜井柚希の陶歴書を挟んだ。



夏目が執務室を出ると、和葵はあらためて柚希のカップを手に取った。

――スミレのような子だったな。

個展で見た時は、いかにも田舎に籠っている陶芸家らしい格好で、化粧っ気も飾り気もなかった。

澄んだ瞳が印象的な、野に咲く花のような女の子だと思った。

着飾ればさぞかし綺麗になるだろうに、そんなことには興味もないだろう無害さが、逆に不安を感じさせた。
だが、まさかあんな登場をするとは。