麗しの彼は、妻に恋をする

桜井柚希が作ったカップを手に取った和葵は、薄い笑みを浮かべしげしげとカップを見つめる。

「僕が"普通の陶芸家"のパトロンになったらまずいでしょう。――ただ、このカップはいい」

――なるほど。

夏目はホッとして肩の力を抜いた。

冬木和葵は冬木陶苑の専務で次期代表だ。

彼がパトロンとなって援助するからには、その作家は時代に名を残す秀でた才能の持ち主でなければならない。

世の中には出す金はあっても、見る目を持たない資産家は大勢いる。
そういった人々は冬木の審美眼に、判断を委ねるのだ。極上の一品を歴史に残すために、冬木には彼らの資金を回すべきところにまわさせる使命がある。

そういう点において彼はブレないし、ある意味冷酷ですらある。

その一方で、傑作とは別に、愛すべきいい器というものはある。
ちょうどこの白いマグカップのように。

彼はこのカップを作った女性にも、同じような魅力を感じたのかもしれない。

――愛人はよくても、パトロンは駄目か。

彼らしいなと思う。